1996

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草案<全文>

木村睦男

KIMURA Mutsuo

「平成新憲法」1
1996年4月20日


第1章 天皇

第1条〔天皇の地位〕
天皇は、日本国の歴史と伝統に基づき、世襲せられた国家の元首であって、日本国を代表する。

第2条〔国民主権〕
皇位は、主権の存する日本国民の総意に基づき国民統合の象徴である。

第3条〔皇位継承、元号〕
皇位は、世襲であって、皇室典範の定めるところによる。
 皇位の継承に際しては元号を定める。

4条〔天皇の国事行為の委任と内閣の助言〕
天皇の、この憲法に定める国事行為には、内閣の助言を必要とし、内閣がすべてその責任を負う。
 天皇は、国事に関する行為を、法律の定めるところにより、世嗣の資格者に委任することができる。

第5条〔摂政〕
皇室典範の定めるところにより、摂政を置くときは、天皇の名でその国事に関する行為を行う。

第6条〔天皇の任命権〕
天皇は、国会の指名に基づいて内閣総理大臣、および憲法裁判所の長たる裁判官を任命する。
 天皇は、内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
 天皇は内閣総理大臣の奏請に基づき国務大臣を任命する。

第7条〔天皇の国事行為〕
天皇は、前条に定める行為のほか、左の行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 国会を解散すること。
四 国会議員の選挙の施行を公示すること。
五 法律の定める国家公務員の任免条、ならびに全権委任状、および大使および公使の信任条に親署し、およびこれを授与すること。
六 外国の大使及び公使を接受すること。
七 条約を批准し、および法律の定めるその他の外交文書に親署すること。
八 非常事態を宣言すること。
九 大赦、特赦、減刑、刑の執行免除および復権を行うこと。
十 栄典を授与すること。
十一 祭祀その他儀式を行うこと。
十二 前各号のほか、皇位に伴う皇位を行う。

第2章 安全保障

第8条〔国際秩序の尊重、戦争の否認〕
日本国は、国際平和を誠実に希求し、自衛の場合を除き、国際紛争解決のため、あらゆる武力行為、および国権の発動による戦争を否認する。

第9条〔条約および国際法規の遵守〕
日本国が締結した条約、および確立された国際法規は、誠実に遵守する。

第10条〔自衛軍の保持〕
日本国は、国の平和と独立、および国民の基本的人権を守るため、自衛軍を保持する。
 自衛軍の編成、指揮、監督は、内閣総理大臣の権限に属する。
 内閣総理大臣は、自衛軍の出動を命ずるときは、国会の同意を得なければならない。ただし、緊急やむを得ない場合は、出動後、一ヵ月以内に国会の承認を求めなければならない。

第11条〔国際協力と自衛軍の海外派遣〕
国際平和と安全を維持するため、国際連合が集団安全保障措置をとる決議をし、わが国が協力する必要があると認めた場合、内閣総理大臣は国会の承認を経て、自衛軍を海外に派遣することができる。国会閉会中の場合は、派遣後、一ヵ月以内に国会の承認を得なければならない。

第3章 国民の権利および義務

第12条〔国民の要件〕
日本国民たる要件は法律で定める。

13条〔基本的人権の享有と濫用の禁止〕
この憲法が定めるすべての基本的人権は、固有の権利として、国民に保障される。
 国民の権利を、常に公共の福祉のために活用し、これを濫用してはならない。

第14条〔法の前の平等、栄典〕
すべての国民は、法の前に平等である。
 国民は、国が規制する国民生活のすべてにわたり、人種、性別、信条、社会的地位により差別されない。
 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、これを受ける者の一代限りとする。

第15条〔思想および良心の自由〕
思想および良心の自由は、侵してはならない。

第16条〔学問の自由〕
学問の自由は、これを保障する。

第17条〔信教の自由〕
何人も信教の自由を有する。
 何人も、公共の福祉に反しない限り、宗教上の行為または儀式に参加する自由を有する。

第18条〔国、公共団体の宗教活動の禁止〕
国、および地方公共団体は、宗教教育、その他いかなる宗教活動もしてはならない。
 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、または政治上の権力を行使してはならない。

第19条〔公金の支出、公の財産の利用の制限〕
国は公金、その他公の財産を、宗教上の団体のために支出または使用に供してはならない。

第20条〔集会・結社・表現の自由、通信の秘密〕
集会、結社および言論出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 これらの自由は、国の安全、公の秩序、または個人の権利と名誉を損なうものでない限り制限してはならない。
 検閲は、これをしてはならない。
 通信の秘密は、これを侵してはならない。

第21条〔居住、移転、職業選択の自由〕
何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転、および職業選択の自由を有する。

第22条〔婚姻、家庭〕
結婚は、男女の合意のもとに成立し、夫婦は同等の権利を有し、相互の協力により家庭を維持しなければならない。
 家庭における夫婦の居住、財産権等に関し、法律は、家庭生活が幸福で豊かであるよう配慮して制定されなければならない。

第23条〔財産権〕
財産権は、これを保障する。
 財産権の内容は、公共の福祉に適合するよう法律で定める。
 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用うることができる。

第24条〔外国移住、国籍離脱の自由〕
何人も外国に移住しまたは国籍を離脱する自由を保障される。

第25条〔生存権〕
すべて国民は、健康で文化的な生活を営み、生存する権利を有する。
 国は社会福祉、社会保障、および公衆衛生の向上と、良好な環境の保全に努めなければならない。

第26条〔教育の権利と義務〕
日本国民は法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
 すべて国民は法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。
 義務教育は、これを無償とする。

第27条〔知る権利、私事不可侵〕
知る権利は、何人に対しても保障する。
 何人も、私事に対する侵害は守らなければならない。

第28条〔勤労の権利と義務、児童酷使の禁止〕
すべて国民は勤労の権利を有し義務を負う。
 児童は、これを酷使してはならない。

第29条〔勤労者の団結権〕
勤労者の団結する権利、および団体交渉その他の団体行動をする権利はこれを保障する。

第30条  〔刑事被告人の権利〕
刑事被告人は、公平にして迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
 刑事被告人は、すべての証人に対し審問する機会が与へられ、また自己のために強制的手続により、公費で証人を求める権利を有する。
 刑事被告人は、弁護人を依頼する権利を有し、被告人が自ら依頼することができない場合は、国がこれを付さなければならない。

第31条〔請願権〕
何人も、損害の救済、公務員の罷免、および法令の制定、廃止、または改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有する。
 何人も請願したために、いかなる差別待遇も受けない。

第32条〔国家防衛の義務〕
国民は法律の定めるところにより、国家防衛の義務を負う。

第33条〔納税の義務〕
国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う。

第34条〔法を守る義務〕
国民は、憲法および法律を遵守する義務を負う。

第4章 国会

第35条会の地位、権限〕
国会は国民を代表する立法府であって、左の権限のほか、この憲法および法律の定める権限を行う。
一 立法権
二 予算の議決権
三 条約の承認権
四 国政の調査権

第36条〔一院制〕
国会は国民によって選挙された議員で組織する一院をもって構成する。

第37条〔議員の定数および任期〕 
議員の定数は法律で定める。
 議員の任期は四年とする。ただし国会解散の場合は、その時をもって終了する。

第38条〔議員および選挙人の資格〕
議員およびその選挙人の資格は法律で定める。ただし、人種、宗教、性別、社会的身分、財産、教育による差別をしてはならない。

第39条〔選挙に関する事項〕
選挙区の区割り、投票の方法、その他選挙に関する事項は法律で定める。

第40条〔議員の歳費〕
議員は法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第41条〔議員の不逮捕特権〕
議員は現行犯および法律の定める場合を除いては、、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は国会の要求があれば、会期中釈放しなければならない。

第42条〔議員の発言・表決の無責任〕
議員は、国会で行つた演説、討論または表決について国会外で責任を問はれない。

第43条〔資格争訟の裁判〕
国会は、議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の資格を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第44条〔常会〕
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。この場合、議員の四分の一以上から要求があれば、内閣はその召集を決定しなければならない。

第45条〔臨時会〕
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。この場合、議員の四分の一以上から要求があれば、内閣はその召集を決定しなければならない。

第46条〔特別会〕
国会が解散されたときは、解散の日から四十日以内に総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、内閣は国会を召集しなければならない。

第47条〔緊急措置〕
内閣は国会解散中、緊急非常の事態が発生した場合は、内閣の責任において、臨時に必要な措置をとることができる。
 この場合、次の国会開会後十日以内に、国会の同意を求めなければならない。同意が得られない場合はその効力を失う。

第48条〔定足数、表決方法〕
国会は、総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き、議決することができない。
 国会の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除き、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは議長の決するところによる。

第49条〔会議の公開、会議録、表決の記録〕
国会の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決すれば、秘密会を開くことができる。
 国会は、会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で、特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第50条〔役員の選任、議院規則・懲罰〕
国会は、議長その他の役員を選任する。
 国会は、会議その他の手続および内部の規律に関する規則を定め、また国会内の秩序を乱だした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには出席議員の三分の二以上の議決を必要とする。

第51条〔国政調査権〕
国会は、国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭、および証言、ならびに記録の提出を要求することができる。

第52条〔閣僚の国会出席の特別義務〕
内閣総理大臣その他の国務大臣は、国会に議席を有すると否とにかかわらず、いつでも議案について発言するため、国会に出席することができる。また、答弁あるいは説明のため出席を求められたときは出席しなければならない。

第53条〔弾劾裁判所〕
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、国会議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

第5章 内閣

第54条〔行政権〕
行政権は内閣に属する。

第55条〔内閣の組織〕
内閣は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣およびその他の国務大臣で組織する。
 内閣は、行政権の行使につき国会に対し連帯して責任を負う。

第56条〔内閣総理大臣の指名〕
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて行う。

第57条〔国務大臣の任免〕
国務大臣の任命の奏請および罷免は、内閣総理大臣の権限に属する。ただし、任命については、その過半数を国会議員の中から選ばれなければならない。

第58条〔内閣総理大臣の職務〕
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、ならびに行政各部を指揮監督する。

第59条内閣の職務〕
内閣は一般行政事務の外、次の事務を行う。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
三 外交関係を処理すること。
四 条約を締結すること。ただし事前もしくは事後に、国会の承認を経なければならない。
五 法律の定めるところに従い、国家公務員に関する事務を掌理する。
六 予算を作成し国会に提出すること。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
 法律および政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署する。

第60条〔国務大臣の特権〕
国務大臣は内閣総理大臣の同意がなければ訴追されない。

第6章 憲法裁判所

第61条〔憲法裁判所〕
憲法裁判所は、もっぱら憲法に関する判断を行う裁判所。
 憲法裁判所の裁判官の定数は十一名とし、任期は十年とする。
 憲法裁判所の訴訟に関する、手続その他必要事項は法律で定める。

第62条〔憲法裁判所の権限〕
憲法裁判所は次の権限を有する。
条約、法律、命令、規則または処分について、内閣または国会議員の三分の二以上の申し立てがあった場合に、法律の定めるところにより憲法に適合するかしないかを審判する。
 具体的訴訟事件で、最高裁判所または下級裁判所が求める事項について、法律の定める所により憲法に適合するかしないかを審判する。
 具体的訴訟事件の当事者が、最高裁判所の憲法判断に異議がある場合、法律の定めるところにより、その異議申し立てについて審判する。

第63条〔判決の効力〕
憲法裁判所が、条約、法律、命令、規則または処分について、憲法に適合しないと決定した場合には、法律の定める場合を除き、何人もその決定に拘束される。

第64条〔裁判官の任命、報酬〕
憲法裁判所は、その長たる裁判官およびその他十人の裁判官で構成し、裁判官は国会の指名に基づき、長官以外の裁判官は内閣が任命する。
 裁判官は、定期的に相当額の報酬を受ける。この報酬は在任中減額されない。

第7章 司法

第65条〔司法権と裁判所、裁判官の独立〕
司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
 行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
 裁判官は、法律に定められた資格を有し独立してその職権を行い、憲法および法律にのみ拘束される。

第66条〔最高裁判所の規則制定権〕
最高裁判所は、訴訟手続、裁判所の内部規律、および司法事務処理にし、規則制定の権限を有するとともに、この権限を下級裁判所に委任することができる。
 検察官は最高裁判所の定める規則に従わなければならない。

第67条〔最高裁判所の構成、裁判官の任命〕
裁判官は、長官、おおび内閣が任命する法定数の裁判官で構成する。
 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所が作成する候補者名簿の中から、内閣が任命する。

第68条〔裁判官の身分保障、定年、報酬〕
裁判官は、心身の障害により、職務執行が不可能の旨裁判で決定されるか、もしくは法律による弾劾手続によるの出なければ罷免されない。
 裁判官は、法律の定める年齢に達したとき退官する
 裁判官は、定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は在任中減額されない。

第69条〔裁判の公開〕
裁判の対審および判決は、公開の法廷で行わなければならない。
 裁判所が、裁判官の全員一致で公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は非公開で行うことができる。

第8章 財政

第70条〔財政処理の基本原則〕
国の財政は、国会の議決に基づき内閣が処理する。

第71条〔予算〕
内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して議決を経た後、執行しなければならない。

第72条〔租税〕
あらたに租税を課し、またはこれを変更するには、法律によらなければならない。

第73条〔国費の支出、債務負担〕
国費を支出し、または国が債務を負担するには、国会の議決によらなければならない。

第74条〔予備費〕
内閣は、予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づき予備費を計上し、これを支出した場合、事後に国会の承認を得なければならない。

第75条〔皇室の財産、費用〕
すべて皇室財産は国に属し、その増減については法律で定めるところによる。
 すべて皇室費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

第76条〔暫定予算〕
内閣は、会計年度開始後の不成立に備え、必要により一定期間に係る暫定予算を作成し、国会に提出しなければならない。
 暫定予算は予算の成立によりその効力を失う。

第77条〔継続費〕
内閣は、工事、事業等で完成に一年以上を要するものについては、あらかじめ国会の議決を経て、数年度にわたり国費を支出することができる。

第78条〔増額修正の禁止等〕
国会における予算審議の際、増額修正は認められない。
 国会において、議員による予算を伴う立法は、認められない。

第79条〔決算、会計検査院〕
国の収入支出の決算は、毎年会計検査院が検査し、内閣は、次の年度にその検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
 会計検査院の組織および権限は、法律で定める。

第9章 地方自治

第80条〔地方自治の基本〕
地方公共団体の組織および運営に関しては、地方自治の本旨に基付いて法律で定める。

第81条〔地方公共団体の権能〕
地方公共団体は、財産を管理し、事務を処理し、および行政を執行するとともに、法律の範囲内で条例を制定することができる。

第82条〔地方公共団体の機関、選挙〕
地方公共団体は、法律の定めるところにより、議事機関として議会を設置する。
 地方公共団体の長、およびその議会の議員は、その団体の住民が直接選挙する。

第83条〔特別法の住民投票〕
特別の地方公共団体のみに適用されることを目的とした法律案は、法律によるその地方公共団体の住民投票による過半数の同意が得られなければ、法律とならない。

第10章 改正

第84条〔憲法の改正、公布〕
憲法の改正は、国会議員または内閣が発議し、国会において総議員の三分の二以上の賛成で決議しなければならない。
 憲法改正につき前項の議決を経たときは、天皇は直ちにこれを公布する。