1955

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草案<一部>

中曽根康弘(1955年)

NAKASONE Yasuhiro

「自主憲法のための改正要綱試案」1
1955年9月10日


  

日本国民は、国家再建の基礎を平和を尊び人格を重んずる人類普遍の原理に求め、固有の歴史と伝統を尊重しつつ、自主独立の基盤に立って、民主主義により国政を行、茲に主権に存する国民の総意によってこの憲法を実施する。
 日本国民は又、正義と秩序を基調とする世界の恒久平和を念願し、このため誠実に国際信義を遵守し、国際協力に貢献し、人類共同の繁栄のために進んで責任を負担する。
 国政は国民に信託に基ずく崇高な行為であって、常に基本的人権を尊重し、個人の自由と公共の福祉との調和を図利、国民一体となってこの憲法を遵守して自由と平和を愛する福祉国家を建設することを誓う。

天皇

 天皇は日本国の元首であって、主権の存する国民の総意に基ずき、日本国を代表する。
 皇位は世襲であって、皇室法の定めるところにより、これを継承する。
 天皇は内閣の進言に基ずいて、憲法の定める国家の議事に関する行為を行い、内閣がその責任を負う。
 内閣の進言に基ずき、天皇の行う行為に左の諸件を加える。
一 予算の公布
二 宣戦、講和の布告
三 非常事態宣言、及び緊急命令の公布
四 条約の批准
五 国務大臣及び法律の定めるその他の公務員の任免状、並びに全権委任状、大使及び公使の信任状の授与
六 外国大使、公使の信任状の受理
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行免除及び復権を行うこと。

国民及びその権利、義務 

国家は、法律の定めるところにより、国民の権力と経済的条件に応じ、最高教育に至るまでの教育費を保障する。
2 国家は企業の規模に応じ、夫夫国民経済の伸長に寄与するよう調和ある発達を図る。
3 利潤の分配、経営の参加等につき特別の協約をなす企業にあっては、勤労者の争議上の実力行使の権利はこれを認めないことが出来る。
 家庭は社会を作る人倫の基盤であって、信愛貞節を以て結び、各人の幸福について相互に責任を負う。
 国家は青少年の自由にして健全な成長のため特に意を用うる。
 農地の零細化を防止するため、法律により相続につき特別の定めをなすことが出来る。

国家の安全保持 

日本国民は平和の確保を誠実に念頭し、国際紛争解決の手段として、武力による威嚇又は武力の行使を為すことは永久にこれを放棄する。
 日本国民は国家を防衛する義務を有する。防衛軍は国力に相応するものとし、その指揮編成、規律及び兵力量は法律で定める。
 国家は非常に事態がおきったときは、内閣は非常事態宣言を発することが出来る。
非常事態宣言の要件及び効力は法律で定める。

価値を創造

新しき価値を創造して人類の文化に貢献、国民の生活を豊にするために、勤労、科学技術、芸術を尊重し、奨励する。

国会

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一つの立法機関である。
 国会議員は国民全体の代表者であり、一部の代表者ではない。法律の定めるところにより強制的委任は禁止する。
 参議院議員の任期を四年とし、法律の定めるところにより、推薦制による議員を認め、この議員は政党員たりえないものとする。
 参議院議員は、国務大臣、政務官に選任出来ないこととする。
 裁判官弾劾裁判、特定高級公務員任命に対する承認は参議院の専管事項とする。
 同一内閣に於いては、同一原因による解散を二回続けて行ってはならない。
 特別国会に於ける不信任議決の可決は衆議院の三分の二の多数を必要とする。
 戦争の宣言については国会の事前の承認を必要とする。国家非常事態の宣言、防衛出動については、国会の事前又は事後の承認を必要とする。

内閣

内閣総理大臣の指名は、衆議院において、衆議院議員中より指名し、この指名に基ずいて天皇が任命する。
 国務大臣の過半数は衆議院議員とし、総理大臣の指名に基ずき、天皇が任命する。総理大臣の、国民大臣罷免権は存続する。
 現役軍人は国務大臣たり得ない。
 防衛軍の指揮(国会の授権に基ずく)、編成、維持、国防会議の事務は内閣の権限とする。
 国会の閉会中、緊急事態に際しては内閣は法律に代る命令を出すことが出来る。この命令は次の国会においてその承認を求め、承認を得られなかった場合は将来に向かって失効するものとする。
 内閣総理大臣の呼称を内閣総理長官、国務大臣の呼称を国務長官と改める。

司法

法律の定めるところにより、軍事裁判所等の特別裁判所の設置を認める。
 最高裁判所裁判官の国民審査は廃止し、その適合審査は参議院の権限に移す。
 裁判の公開が、公序良俗を害する恐あるときは、裁判官の全員の決議により、裁判を非公開とすることが出来る。

財政

予算の増額修正につき、政府が反対の場合は両院の三分の二の多数を必要とする。
 年度開始までに予算が成立しない場合は、新予算成立に至るまで、前年度予算を施行し、国会の事後承諾を得る事とする。
 予算も公布する。
 公金、其の他公の財産を、民間の慈善、教育、博愛の事業に対しても、支出し又は利用に供することができることとする。
 決算は国会に提出して両院の承諾を要するものとする。
 非常事態において、国会召集が不可能か又は其の余裕ない場合、政府の責任支出を認め、事後に国会の承諾を求めるものとする。

地方自治

地方公共団体の種類も、法律でこれを定めるものとする。
 地方公共団体の長は、法律の定めるところにより、住民の直接又は間接の選挙で選出することとする。
 一の地方公共団体のみに適用される特別法で、その地方公共団体の住民の投票に付さなければならないものは、特に法律で定めるものに限定する。

改正 

両院のいづれかの一院における賛成者が二分の一を越え、三分の二に達しないときは、国民投票に付するものとし、両院いづれも三分の二以上の賛成を得たときは、国民投票は要しない。