2006

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草案<全文>

創憲会議

Sōken Kaigi

「新憲法草案」1
2006年4月1日


前文

日本国民は、わが国と国際社会の平和および繁栄を念願し、この新しい憲法の制定にあたり、ここに決意を宣言する。

一、日本国民は、悠久の歴史を通じて、豊かな伝統と独自の文化をつくり上げてきた。われらは、これを承継発展させ、自立と共生の精神に基づく友愛の気風に満ちた国づくりを進める。

一、日本国民は、立憲主義の理念と伝統を受け継ぎ基本的人権尊重の原則に基づいて、自由で民主的な国家を築いてきた。われらは、この礎の上に、国民の福祉を増進し、活力ある公正な社会の建設に努める。

一、日本国民は、美しい国土と豊かな自然のなかで、大自然の営みを畏れ敬い、これと共に生きる心を育んできた。われらは、これを後世に伝えるとともに、地球規模で自然との共生の確保に努める。

一、日本国民は、古来、和の精神に基づき、異文化の摂取および他国との協和に努めてきた。われらは、平和を愛する諸国民と手を携え、国際平和の維持に積極的に寄与し、尊厳ある国づくりを進める。

一、日本国民は、変化に富む列島の気候風土のもと、個性あふれる地域文化を心の拠り所としてきた。われらは、地域社会の自治と自立を尊重し、多様性と創造力に富む国づくりを進める。
われらは、国家と国民の名誉にかけ、この崇高な理想と目的を達成することを誓う

序章

第1条〔象徴天皇制、国民主権〕
天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴である。
2 主権は国民に属し、国のすべての権力は国民に由来する。国民は、代表者を通じて、 またはこの憲法の定めるその他の方法を通じて、主権を行使する。
 
第2条〔人間の尊厳、基本的人権の擁護〕
何人も、人間として尊重される。国民は、共生と友愛の精神に基づいて、この憲 法の定める自由および権利の擁護に努めなければならない。
 
第3条〔国際平和主義、軍隊、徴兵制の禁止〕
日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 日本国は、国の独立と主権を守り、国民の生命、自由および財産を保護し、国の領土を保全し、ならびに国際社会の平和に寄与するため、軍隊を保持する。
3 軍隊の最高の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。
4 徴兵制は、これを設けない。
5 安全保障に関する事項は、法律でこれを定める。
 
第4条〔国旗、国歌〕
日本国の国旗は、日章旗である。
2 日本国の国歌は、君が代である。
 
第5条〔領土〕
日本国の領土は、日本列島およびその附属諸島嶼である。

第1章 天皇

第6条〔皇位の承継〕
皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを承継する。
 
7条〔天皇の権能、国事行為の委任、内閣総理大臣の助言と承認〕
天皇は、この憲法第十条に定める行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
3 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣総理大臣の助言と承認を必要とし、内閣総理大臣が、その責任を負う。
 
第8条〔摂政〕
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

9条〔天皇の国事行為〕
天皇は、国民のために、左の国事に関する行為を行う。
一 衆議院の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること。
二 内閣総理大臣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること。
三 憲法裁判所裁判官の互選に基づいて、憲法裁判所の長たる裁判官を任命すること。
四 憲法改正、法律、政令および条約を公布すること。
五 国会を召集すること。
六 第八十条に基づいて、衆議院を解散すること。
七 国会議員の選挙を公示すること。
八 国務大臣および法律の定めるその他の公務員の任免ならびに全権委任状および大使および公使の信任状を認証すること。
九 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること。
十 栄典を授与すること。
十一 批准書および法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
十二 外国の大使および公使を接受すること。
十三 儀式を行うこと。
 
第10条〔象徴としての行為〕
天皇は、伝統および慣習に従い、象徴としての行為を行う。

第2章 権利および義務

第11条〔日本国民の要件〕
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
 
12条〔基本的人権の享有、自由および権利の尊重、法律上の制限、濫用の禁止〕
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
2 この憲法が保障する自由および権利は、国もしくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康もしくは道徳の保護、または他の者の自由および権利の保護のため、法律により、これを制限することができる。国民は、これらの自由および権利を濫用してはならず、不断の努力によってこれを保持しなければならない。
 
第13条〔外国人の権利、庇護権〕
外国人は、権利の性質上日本国民にのみ認められるものを除いて、この憲法が保障する権利を享受する。
2 何人も、迫害からの庇護を求めかつ享受する権利を有する。日本国籍を有しない者が日本国においてこの権利を享受し得る条件は、国際的な基準に配慮して、法律でこれを定める。
 
第14条〔法の下の平等〕
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、または将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
 
第15条〔思想および良心の自由〕
思想および良心の自由は、これを侵してはならない。
 
第16条〔信教の自由、政教分離〕
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、政治に介入し、または政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
3 国およびその機関は、宗派的な宗教活動をしてはならない。ただし、伝統的および儀礼的宗教行為は、この限りでない。
 
第17条〔集会・結社・表現の自由・私事権・知る権利〕
集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
3 前二項で定める自由は、肖像権、名誉権および私事権ならびに青少年の保護育成のため、法律により、これを制限することができる。
4 情報を受け、および収集する権利は、これを保障する。
 
第18条〔政党〕
政党は、国民の政治的意思形成を主導し、国民の政治的参加の基礎的な手段となる結社である。
2 政党の結成および活動は、憲法および法令を遵守する限りにおいて、自由である。
3 政党の組織は、民主的なものでなければならない。
 
第19条〔学問の自由、大学の自治〕
学問の自由および大学の自治は、これを保障する。
 
第20条〔生命倫理の保護〕
生命の尊厳の保持、生命および身体の安全ならびに社会秩序の維持のため、国は、生命倫理の保護に努めなければならない。
 
第21条〔法定手続の保障〕
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。
 
第22条〔逮捕に対する保障〕
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
 
第23条〔抑留・拘禁に対する保障〕
何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留または拘禁されない。また、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人およびその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
 
第24条〔住居侵入・捜索・押収に対する保障〕
何人も、その住居、書類および所持品について、侵入、捜索および押収を受けることのない権利は、第22条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所および押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索または押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により、これを行う。
 
第25条〔拷問および残虐刑の禁止〕
公務員による拷問および残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
 
第26条〔奴隷的拘束および苦役からの自由〕
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
 
第27条〔刑事被告人の権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
 
第28条〔犯罪被害者の救済〕
重大な犯罪の被害者およびその遺族は、法律の定めるところにより、国家から救済を受けることができる。
 
第29条〔自己負罪拒否の権利、自白の証拠能力〕
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問もしくは脅迫による自白または不当に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、または刑罰を科せられない。
 
第30条〔遡及処罰の禁止、二重の危険の禁止〕
何人も、実行の時に適法であった行為またはすでに無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
 
第31条〔財産権〕
財産権は、これを保障する。
2 財産権の内容は、法律でこれを定める。
3 土地、天然資源、自然環境その他国民生活に不可欠な財産は、その有効、適切かつ公 正な利用を確保するための規制に服する。
4 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
 
第32条〔知的財産権〕
知的財産権の保護は、国の責務である。
 
第33条〔居住・移転および職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、居住、移転および職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない。
 
第34条〔裁判を受ける権利〕
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
 
第35条〔刑事補償請求権〕
何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
 
第36条〔請願権〕
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止または改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
 
第37条〔国家賠償請求権〕
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または地方自治体に、その賠償を求めることができる。
 
第38条〔参政権〕
公務員を選定し、およびこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。
 
第39条〔家族の保護、婚姻の自由〕
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、国はこれを保護する。
2 子を監護および養育することは、両親の権利であり義務である。国は、両親が子を監護および養育する責任を果たすために必要な援助を与える。
3 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
4 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、ならびに婚姻および家族に関するその他の事項に関しては、法律は、人間の尊厳、夫婦の本質的平等および社会の基礎としての家族の価値を尊重して、制定されなければならない。
 
第40条〔生存権〕
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保険および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない。
3 第一項の権利は、これを具体化する法律の規定に従ってのみ、裁判所にその救済を求めることができる。
 
第41条〔教育に関する権利〕
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
3 国は、公教育の大綱を作成および実施する責任を負う。
 
第42条〔勤労の権利および義務〕
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 勤労者は、人間として尊重され、その職場において適正な処遇を受ける権利を有する。
3 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
4 児童は、これを酷使してはならない。
 
第43条〔勤労者の団結権および団体行動権〕
勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
 
第44条〔環境権〕
何人も、良好な環境を享受する権利を有し、その保全に努める義務を負う。
2 国は、良好な環境を保全するための施策の実施に努めなければならない。
3 第一項の権利は、これを具体化する法律の規定に従ってのみ、裁判所にその救済を求めることができる。
 
第45条〔納税の義務〕
何人も、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
 
第46条〔遵法の義務〕
何人も、この憲法、ならびに国および地方自治体の定める法令を遵守する義務を負う。
 
第47条〔国を守る責務〕
すべて国民は、国の安全と独立を守る責務を負う。
 
第48条〔行政監察官〕
本章で定める自由および権利を擁護するため、法律により、行政監察官を設置し、国会でこれを任命する。
2 行政監察官は、国会の委任を受けて、行政の活動を監督および調査し、必要な助言および勧告を行う。
3 行政監察官は、毎年、行政の活動に関する報告書を国会に提出する。

第三章 立法権

第49条〔立法権〕
立法権は、国会に属する。
 
第50条〔両院制〕
国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
 
第51条〔両議院の組織〕
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
 
第52条〔議員および選挙人の資格〕
両議院の議員およびその選挙人の資格は、法律でこれを定める。ただし、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産または収入によって差別してはならない。
 
第53条〔衆議院議員の任期〕
衆議院議員の任期は、四年とする。ただし、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
 
第54条〔参議院議員の任期〕
参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
 
第55条〔両議院議員選挙の原則、選挙に関する事項の決定〕
衆議院議員および参議院議員は、国民の直接選挙によりこれを選出する。
2 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
 
第56条〔両院議員兼職の禁止〕
何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
 
第57条〔議員の歳費〕
両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
 
第58条〔不逮捕特権〕
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
 
第59条〔免責特権〕
両議院の議員は、議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない。
 
第60条〔常会〕
国会の常会は、毎年一回これを召集する。
 
第61条〔臨時会〕
内閣総理大臣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣総理大臣は、二十日以内に、その召集を決定しなければならない。
 
第62条〔合同委員会〕
衆議院議員総選挙および参議院議員通常選挙の後に国会が召集されたときは、すみやかに両院の合同委員会を選出しなければならない。
2 合同委員会は、各議院から院内各派の議員数に比例して選出された二十人以上三十人以下の委員でこれを組織する。
3 合同委員会は、国に緊急の必要が生じ、かつ国会を召集することができない場合に、国会の権能を行使する。
4 合同委員会により採られた措置は、次の国会開会の後十日以内に、国会の同意がない場合には、その効力を失う。
5 合同委員会の委員は、議員としての任期満了後または衆議院が解散された後も、次の国会が召集されるまでの間、その職務を継続して行う。
 
第63条〔衆議院の解散、特別会、合同委員会の招集〕
衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣総理大臣は、国に緊急の必要があるときは、合同委員会の集会を求めることができる。
 
第64条〔議員の資格争訟〕
両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の資格を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
 
第65条〔議事議決の定足数、表決〕
両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
 
第66条〔会議の公開〕
両議院の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議院の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
 
第67条〔議院の自律権〕
両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
 
第68条〔法律案の議決〕
法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で再び可決したときは、法律となる。ただし、参議院の議決後、国会休会中の期間を除いて六十日を経過した後でなければ、衆議院で再議決を行うことができない。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
 
第69条〔予算の議決〕
予算案は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算案について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
 
第70条〔条約の承認〕
条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

第71条〔議院の国政調査権〕
両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭および証言ならびに記録の提出を要求することができる。
2 出席議員の三分の一以上が国政に関する調査を要求するときは、議院は調査を行わなければならない。
 
第72条〔憲法専門委員会〕
両議院に、法律案の憲法適合性および政令の法律適合性を審査する専門委員会を設置する。
 
第73条〔国務大臣の議院出席の権利及び義務〕
内閣総理大臣および国務大臣は、両議院の一つに議席を有すると有しないとにかかわらず、何時でも議案について発言するために議院に出席することができる。また、答弁または説明のため出席を求められたときは、出席しなればならない。
 
第74条〔弾劾裁判所〕
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

第4章 執行権

第75条〔執行権〕
執行権は、内閣総理大臣に属する。
 
第76条〔国会に対する責任〕
内閣総理大臣は、執行権の行使について、国会に対し責任を負う。
 
第77条〔総選挙における内閣総理大臣候補者と施政基本方針の明示〕
衆議院議員総選挙の際、政党は、内閣総理大臣の候補者および施政の基本方針を明示しなければならない。
 
第78条〔内閣総理大臣の指名〕
内閣総理大臣は、衆議院議員の中から衆議院の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先立って、これを行う。
 
第79条〔国務大臣、内閣〕
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。ただし、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
3 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣および国務大臣でこれを組織する。
4 内閣総理大臣および国務大臣は、文民でなければならない。
 
第80条〔内閣不信任、衆議院解散〕
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
 
第81条内閣総理大臣の臨時代行〕
内閣総理大臣に事故のあるとき、または内閣総理大臣が欠けたときは、そのあらかじめ指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を代行する。
2 第80条および前項の場合には、内閣総理大臣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。
 
第82条内閣総理大臣の職務〕
内閣総理大臣は、国務を総理し、法律を誠実に執行し、および行政各部を指揮監督する。
2 内閣総理大臣は、この憲法の定めるもののほか、左の権限を有する。
一 憲法改正案、法律案その他の議案を国会に提出すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
五 予算案を作成して国会に提出すること。
六 法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を決定すること。
 
第83条〔国務大臣の職務〕
国務大臣は、内閣総理大臣を補佐し、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。ただし、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げない。
 
第84条〔法律・政令の署名〕
法律および政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
 
第85条〔国務大臣の訴追〕
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は、害されない。

第86条〔諮問的国民投票〕
特に重要な国政上の案件は、これを諮問的な国民投票に付すことができる。
2 国民投票は、内閣総理大臣の提案に基づき、国会の承認を得て、これを行う。
3 国民投票の条件および手続は、法律でこれを定める。
 
第87条〔緊急事態への対応〕
防衛緊急事態、治安緊急事態および災害緊急事態において、内閣総理大臣および国会が行使する権限は、本条の定める原則に従い、法律でこれを定める。
2 内閣総理大臣は、この憲法および法律に基づいて、緊急事態の宣言を発し、軍隊、警察、消防その他国および地方自治体のすべての機関に対し、直接に、必要な措置を命ずることができる。
3 内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発した後十五日以内に、国会の承認を求めなければならない。国会両院を召集することができないときは、合同委員会に承認を求めなければならない。
4 緊急事態が宣言されている間は、衆議院を解散してはならない。
5 緊急事態において内閣総理大臣が命ずる措置は、国民の生命、自由および財産を保護するために必要な最小限度のものでなければならない。

第5章 司法権

第88条〔司法権、裁判官の独立〕
すべて司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 行政機関は、終審として裁判を行うことはできない。
3 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。
 
第89条〔最高裁判所の規則制定権〕
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
 
第90条〔裁判官の身分保障〕
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

第91条〔最高裁判所の裁判官〕
最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣総理大臣がこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
3 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
 
第92条〔下級裁判所の裁判官〕
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第93条〔違憲審査〕
最高裁判所および下級裁判所は、具体的な訴訟事件に適用される法令が憲法に違反している可能性があると認めたときは、手続を中止し、憲法裁判所の判断を求めなければならない。
 
第94条〔裁判の公開〕
裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪またはこの憲法第二章で保障する自由および権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

第6章 憲法裁判所

第95条〔憲法裁判所の裁判官〕
憲法裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成する。裁判官は、その四分の一ずつを、衆議院、参議院、内閣総理大臣および最高裁判所の長たる裁判官が、それぞれ指名する。
2 憲法裁判所の長たる裁判官は、憲法裁判所裁判官の互選による。
3 憲法裁判所の裁判官の任期は、十年とし、再任されることができない。
4 憲法裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
 
第96条〔憲法裁判所の裁判官の身分保障〕
憲法裁判所の裁判官の身分保障については、第90条の規定を準用する。
 
第97条〔憲法裁判所の規則制定権〕
憲法裁判所の規則制定権については、第89条第一項の規定を準用する。
 
第98条〔憲法裁判所の権限〕
憲法裁判所は、左の権限を有する。
一 具体的訴訟事件に関し、最高裁判所または下級裁判所が要求する場合に、条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを審査すること。
二 内閣総理大臣または国会のいずれかの議院の総議員の三分の二以上の申し立てにより、条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを審査すること。
三 国と地方自治体の間、または地方自治体相互間の権限をめぐる争訟を裁定すること。
四 法律で定めるその他の事項。
 
第99条〔憲法裁判所の判決の効力〕
憲法裁判所の判決は、公示の日の翌日より効力を有し、すべての公権力を拘束する。
2 憲法裁判所により憲法違反と判断された法令の条規は、一般的に無効となる。ただし、法令中、憲法違反とされなかった部分の効力は存続する。

第7章 財政

第100条〔財政運営の基本原則〕
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいてこれを行使しなければならない。
2 国は、均衡のとれた健全な財政運営に努めなければならない。
 
第101条〔課税の要件〕
あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには、法律または法律の定める条件によることを必要とする。
 
第102条〔国費の支出および債務負担〕
国費を支出し、または国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。
 
第103条〔予算〕
内閣総理大臣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
2 内閣総理大臣は、予算案の作成に際して、第106条第二項に定める参議院の勧告を尊重しなければならない。
 
第104条〔予備費〕
予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣総理大臣の責任でこれを支出することができる。
2 すべての予備費の支出については、内閣総理大臣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
 
第105条皇室財産〕
すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の経費は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
 
第106条〔会計検査院、決算承認〕
会計検査院は、参議院の委任に基づいて国の財務を検査する最高監査機関である。
2 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、次の年度に参議院に報告書を提出して、その承認を得なければならない。
3 参議院は、決算の審査に際して、内閣総理大臣に対する勧告を決議することができる。
4 会計検査院の組織および権限は、法律でこれを定める。
 
第107条〔財政状況の報告〕
内閣総理大臣は、国会および国民に対して、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

第8章 地方自治

第108条〔地方自治の基本原則〕
地方自治体の組織および運営に関する事項は、基礎自治体による住民自治の原則に基づいて、法律でこれを定める。
 
第109条〔基礎自治体の組織〕
基礎自治体は、法律の定めるところにより、住民の直接選挙に基づく議事機関を設置する。
2 基礎自治体には、法律の定めるところにより、住民または前項の議事機関の選任に基づく首長を置く。ただし、首長選挙の方法は、基礎自治体の規模および特性に応じて、条例でこれを定める。
 
第110条〔広域行政の組織〕
府県または道州の組織には、法律の定めるところにより、住民の直接選挙に基づく議事機関としての議会および首長を置く。
 
第111条〔地方自治体の権能〕
地方自治体は、その財産を管理し、事務を処理し、および行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
2 地方自治体は、条例により租税を課すことができる。
 
第112条〔国の専権事項〕
国は、左の事項を処理する排他的な権限を有する。
一 国籍、出入国管理、外国人の身分および庇護権
二 外交および国際関係
三 国防
四 警察の大綱
五 海上保安
六 通貨制度
七 司法制度
八 刑法、民法、商法、労働法および訴訟法
九 知的財産権の保護
十 関税
十一 通商の規則
十二 国税
 
第113条〔特別法の住民投票〕
特定の地方自治体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民投票において、その過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

第9章 改正

第114条〔憲法改正手続〕
この憲法の改正は、各議院の総議員の過半数の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 国会の発議において、各議院の総議員の三分の二以上の賛成があったときは、国民の承認があったものとみなされる。
3 憲法改正について前二項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、直ちにこれを公布する。
4 憲法改正の手続に関する事項は、法律でこれを定める。

第10章 最高法規

第115条〔憲法の最高法規性、国際法の遵守〕
この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する条約、法律、命令および国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約および確立された国際条規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
 
第116条〔公務員の憲法尊重擁護義務〕
天皇または摂政および内閣総理大臣、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。